短編小説シリーズ第2弾「監獄」をお送りします。
主人公のトミー・カーステリは、人生は監獄だ、と思っているようです。
監獄(その1)
トミー・カーステリは考えないようにしていたけれど、29歳になるまでの人生は叫び出したくなるほど退屈だった。
しかし、そのすべてが妻のローザや、セントで教えるようなわずかな金儲けのために開いている店、あるいは耐えられないくらい客足が鈍い時間、そして駄菓子屋、煙草、ソーダ水を売るのにつきもののきりのないおしゃべり、のせいというのではなかった。
この胃がむかつくような気分は、昔の失敗、ローザがまだトニーをトミーと呼び変えていない時に誤って罠にかかったためである。
トニーと呼ばれていた時は、夢や将来への設計がいっぱいあり、例えばそれは、アパートが建て込み子供が泣きわめく、みすぼらしいこの土地から出て行くことだったが、何もかも駄目になってしまった。
靴職人になるために、と両親から入れえられた職業訓練所を十六歳の時にやめて、グレーの帽子をかぶり足裏のうすい靴を履いた少年たちと一緒になってぶらぶらし始めたが、彼らはあり余る時間と金を持ち、地下室のクラブでぶ厚い現金の束を見せびらかして、見た者はびっくりして目を丸くするほどだった。
銀のエスプレッソ専用コーヒーの湯沸かしやテレビを買えるような子供たちで、その上ピザパーティーを用意して女の子を呼び集めるのだ。
いまのこの苦痛が始まったのは、彼らやその車と関わりを持ち酒屋に強盗に入ったことからだ。
運が良かったのは、、石炭や氷を扱う彼らの主人が土地の有力者と知り合いで、事件を二人でおさめてくれたので、あとになっても、とやかく言われることはなかったことである。
当時は何が何だがわからなかった―何もかも混乱していてうんざりしていた―おやじがローザ・アグネロの父親とこっそりある取引をしたのだが、その内容というのは、トニーが彼女と結婚したら義理の父親がもっとまともな生活をさせるのに、自分の貯金で駄菓子屋を持たせる、というものだった。
彼は駄菓子屋には唾もひっかけようとはせず、そして身体に関する好みから言うと、ローザはひどいブスのくせにひょろっとやせた女だった。
そういうこともあってテキサスから逃げ出し、ずい分長い間めっちゃくちゃな生活をして、戻って来た時、あんなふうになったのはローザと駄菓子屋のせいだ、という噂も立ったが、結局いやだとも言えず、いいなりになってすべてもと通りになった。
~続く~