高野白山の九州易学開運学院

徒然の記

短編小説シリーズ~監獄(その2)

監獄(その2 )

グリニッジビレッジのプリンセス街までやっとの思いで着いたら、昼寝に2階へ上る午後1時間の休憩を除いて、朝8時からほとんど深夜まで働きづめ、そして水曜日になると店を閉めて少し寝たあと、夜中に一人で映画を見に行くのだ。

もう駆け引きには疲れていたのだが、シンジケート組織が近所の店に置いていたパンチボードをこっそり入手して小遣いを稼ごうとしたことが一度だけあり、その分け前をローザに内緒で貯め込んで55ドルになっていた。

しかし、そのあとシンジケート組織が新聞に書き立てられ、パンチボードは全部撤去されてしまった。

ある時、ローザが実家に帰っていた時だが、いい機会なのでずっと置いておくとけっこういい金になるスロットマシーンをかわりに入れたことがある。

もちろん隠せるとは思っていなかった。

だから彼女が戻ってわめき始めても今度だけはどなり返さず、5セント白銅貨を入れると、悪くてもはっか菓子が出て来るから博打じゃないだ、と釈明した。

もしも客が思いがけず2,3ドルでも儲けたら、テレビを買う足しになるので、酒場まで行かなくてもボクシングの試合が見れるのだと説得したが、ローザは泣きわめき、ちょうどその時彼女の父親が、おまえが悪いんだとどなりながらやって来て、鉄管工事に使う大きなハンマーで機械をたたき壊した。

翌日、警官隊がスロットマシーンを置いている店を捜索し、お客さんを逮捕して公表した。

トミーの店は近所でスロットマシーンを置いていたたった一軒の店だったけれども、彼は長い間このことを後悔した。

掃除をするためにローザが2階に上がっているので、朝は一日のうちで一番気分のいい時であり、昼まで客がほとんど来ない間は、爪楊枝で歯をせせり一人でゆったり座って、ソーダ水の台にニューヨーク・ディリー・ニュースやディリー・ミラーを広げて目を通すか、その日走る競走馬のことや最近福引きがかなり儲かるので、ばくちへ行く途中でたまたま通りかかった昔のセラークラブ仲間と馬鹿話をするのだった。

でなければ、座り込んでコーヒーをすすりながら地下室に隠している55ドルを貯めるのにどんなに長くかかったか、を思いうかべるのだ。

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