監獄(その5)
たとえ恐がらせても、はっきりとしゃべらなければならない、言いさえすれば正しい方向に導こうとする自分の意図をわかってくれるだろう。
誰も君のことを考えていない訳じゃない、僕は日除けを上げたり窓を洗う時は、いつでもまわりを見回して、遊んでいる女の子がもしかして君じゃないだろうかと思って見てたけど違っていたよ、などと言おうと思った。
次の日曜日、店を開けて1時間、煙草のシケモクを喫っていた。
言うべきことがはっきりしたような気もしたが、今度は彼女が来なかったとしたらその理由は何だろうかと考えたり、また来たとしてもお菓子を盗るのをためらってやめるかも知れない、と考えたりした。
言うべきことを言ってしまうまでは、本当にそうなることを望んでいるのか確信が持てないものだ。
しかし11時頃ニューヨーク・ディリー・ニュースを読んでいる時、彼女が現われてティッシュペーパーを買ったが、、その瞳がぎらぎら光るので、眼をそらさなければならなかった。
盗むつもりだというのはわかっていた。
背中を見せてゆっくり引き出しを開けながら、頭を低く下げ鏡に眼をやると、彼女がカウンターの向こうにするっと入るのが見えた。
心臓は高鳴り、足は床に釘づけになったような感じがした。
心は暗く空っぽの部屋と同じで、結局、そっと出してやったが、彼女は、10セント銀貨を熱くなるほど握りしめながら唇を結んだまま立っていた。
そのあと、お菓子を持ったまま食べないでいるのはつらいだろうと考えて話しかけなかったのだ、と自分に弁解したが、思ったより彼女を恐がらせたかも知れない。
2階に上がり、眠るかわりに台所の窓ぎわに座り、裏庭を見回した。
あまりに気が優しく臆病な自分を責めはしたが、あの時はほかにいい方法はなかったのだ。
だが、今度は知っているぞと遠回しに知らせる、そうしたら盗みをきっとやめさせられると思った。
そのうちに、盗みをやめることがどうしていいことなのか、その意味を教えてやるのだ。
それで、お菓子を入れる大皿を空にして、気づいていることをわからせようとしたが、手を出すのをためらう様子もなく、その横の大皿からキャンディー棒を2本盗り、いつも持っているパテント付きの黒皮のがま口に入れたのだ。
~続く~