毎年同じ時期になって想うのは、ライトアップされた夜桜の美しさです。
普段は、単なる老木ですが、櫻が咲くと見事な妖艶さを発揮して通行人を楽しませてくれます。
今夜は、朧月、朧月に夜桜、とくれば、春を競演する役者が揃ったようです。
評論家の丸谷 才一氏が江戸歌舞伎の春公演に秘められた呪術性を解明していますが、どこかで何かが起こりそうな予感がする不思議な夜となりました。
寒い時期にはなぜか万葉集の貧窮問答歌(山上憶良)を思い出すことがあります。
貧窮問答歌、さわりの一節をご紹介しますと、
~堅塩(かたしお)を 取りづつしろひ 糟湯酒(かすゆざけ) うちすす(啜)ろひて しはぶ(咳)かひ 鼻びしびしに しか(然)とあらぬ ひげ(髭)かき撫(な)でて あれ(吾)をお(除)きて 人はあらじと ほこ(誇)ろへど 寒くしあれば 麻ぶすま 引きかがふ(被)り~
概ね次のような意味です。
「堅くなった粗末な塩を少しずつなめて、酒粕を溶かしただけの酒を啜ると、咳がでて鼻もむずむずしてくる。ろくに生えていない髭を撫でながら、自分のほかたいした人物はおるまい、とうそぶくものの、寒くなって麻の夜具を引き被り……」.
なにげないおかしみとペーソスを感じさせる情景が浮かびます。